12月に入って今年もまた、あの頃のようにお気に入りの、雪色のマフラーを巻きました。
「少し冷えてきた身体を ぽかぽかにしたいな」
久しぶりに近所の温泉へ行きたくなりました。
私がまだ、塾でアルバイトをしていた12月のこと。
あの頃の私は、今でも誰にも言えないことを抱えていて、妄想と現実の間で凍えていました。
それまで、一人で温泉に行こうなんて考えたこともなかったけれど、
「気分転換に行ってみようかな」
と 半ば勢いで、仕事帰りにふらっと行ってみたのが、温泉好きになったきっかけでした。
少し古びた温泉施設。
すぐそばには川が流れ、緑に囲まれ、日中は鳥たちが歌をうたい、
そして、夕暮れには月と金星がふんわり空に浮かびます。
露天風呂のお湯は、有馬温泉の金泉のような茶色の日もあれば、少し青みがかった日もあります。
とろみのある塩化物泉で、ツンっとした金属の香りをやわらかくしたような香り。
露天風呂への扉を開けると、暗闇の中小さな灯りがぽつんと一つ灯っていて、私以外誰もいませんでした。
整えられた松のお庭と、高い岩で囲われた洞窟みたいな夜の露天風呂。
薄暗い階段を数段降りると、ボイラーのようなポンっ…ポンっ…の音が大きく鳴っていて、少しだけこわくなりました。
でも誰もいないから思いきって、少し熱いお湯の中でのびのび〜、全身を思いきり伸ばしたら、疲れも凍えた気持ちもぜんぶぜんぶ忘れられそう。
水面のきらめきがゆらめいて、湯気がたちのぼります。
岩風呂のヘリに腰かけて、長かった髪をほどいて水面を見つめていると、私も湯気みたいに空気に淡く溶けて、悲しい重りも消えていくような気がしました。
ポンっ…ポンっ…の音も、もうこわくなかった。
今でもこの温泉へ、時々訪れます。
松やツツジのお庭と空を眺めながら、明るい午後のお湯の中で のびのび〜
あの時みたいに 全身を伸ばしました。
たいていお庭には小鳥がやってきて、追いかけっこするみたいにパタパタしてます。
そのたびに、私の羽根もぴかぴかになるみたい。
「あの時の、苦しかった気持ちはもうないよ。」
心の奥で、木々の葉をゆらす風に伝えました。
今の私には、風にのってどこまでも行ける羽衣があるんだから。
そうそう、 温泉でいただく鍋焼きうどんって、なんであんなに美味しいのかな。